先週末、6月9日(土曜)~10日(日曜)に組織学会の研究発表大会が東京大学で開催されました。
組織学会は、経営学を中心に経済学、心理学、行動科学、社会学などの広く社会科学の領域の大学教授などが会員に名を連ね、この分野では我国でも最も有力な学会の1つです。(詳しくはこちら)
当サイト運営者は、20歳代にこの学会の正会員となり、学問としての経営学を勉強していたのですが、30歳を過ぎて事業会社へ入社するとともに退会しておりました。昨年、再び先輩会員のご推挙を頂戴して、再入会させていただくことができました。
組織学会では、大規模な研究発表の大会は年に2回あり、今回の大会は毎年この時期に行なわれる研究発表大会と呼ばれるものです。
今回は、500人収容の大ホールから40名くらいの小教室まで、大小さまざまな8つの教室をフルに使って、百数十件の研究報告が行なわれる大規模な学会でした。
会場となった東大経済学部は、竣工して間もない新棟もあって、運営者が通学していたころとは見違えるようにきれいな施設でした。
その大会で、「中小企業の成長戦略としてのM&Aの2類型ーー意図せざる結果にみる能力の活用と資源の獲得」というテーマで研究報告を行ないました。
昔のマルクス経済学に源流を発する中小企業論という講座では、中小企業は独占資本たる大企業に搾取される存在として位置づけられていたこともあり、「自らの意思で成長する」存在とは想定されていませんでした。
他方、創業間もない企業で、新しい技術や事業システムを駆使してどんどん成長していく企業は、特にアメリカでは「スタートアップ」という分類で研究されており、日本でイメージする「中小企業」とは全く別物という観があります。日本でいう「ベンチャー企業」ですかね。
では、伝統的というか、産業としての成長率が鈍化もしくはマイナスに転じている成熟産業に属している、業歴の比較的長い中小企業の経営者が、「成長したい」と考えた時に、何を参考にすればいいのでしょうか?
古い中小企業論には成長戦略は書いていないし、ベンチャー企業論を見ても既存事業との兼ね合いや既存資源(耐用年数を過ぎた生産設備、古参の従業員、イメージが古くなったブランドなど)をどうするかということには触れられていません。
かといって「元気な中小企業」みたいな雑誌の特集記事に登場するのは、押しの強い創業者か中興の祖みたいなカリスマ経営者が、独特のキャラクターで成し遂げました、みたいな話ばかりで、普通の中小企業の普通の経営者には、最初から参考になりそうもないことが殆どです。
普通の産業の、普通の中小企業が、「成長」などという大上段に振りかぶることはなくても、自社を存続させていこうと考えたら、仮に現状維持でいいやと思ったとしても、維持を意図して維持できるほど世の中の環境は甘くないわけで、維持しようと思ったら成長を目指さなければ維持もできないのです。
このように、成長戦略はすべての中小企業に必要なのですが、その際には、WHATとともに、HOWが問題になります。
普通に考えれば、「自社単独」で進めるのが基本になりますが、それ以外の実現方策としては、「提携」や「M&A」も選択肢に上ります。
その1つである「M&A」については、後継者難という社会情勢を反映して専門の仲介業者が活況を呈している状況ですが、「どのようなM&Aが望ましいのか?」という根本的な部分がまったく議論されないままに、「シナジー」という誰も中身をよく検証できない曖昧模糊としたお題目のもとに、実際の企業売買だけが先行してしまっています。
仲介業者は、収益目的の当事者であり、また中小企業のM&A仲介を専門としている業者だけでも3社が東証1部に上場しており、株主の期待に応えるべく仲介件数の絶えざる向上が義務付けられてしまっていますから、冷静な議論は望むべくもありません。
こうした状況では、利害に中立で公平な立場から学術的・客観的な組み立てのできるアカデミズムこそ出番であるはずです。
このような問題意識から、経営学の学会で中小企業のM&Aを採り上げる意義があるのです。