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イノベーションを興すには

昨年の秋、東京電機大学で開催されたセミナーに参加して来ました。

 

経営者であれば誰しも「世の中にないもの」を世に出す仕事をしたいものです。それこそがイノベーションです。

 

では、イノベーションとは、どのように生み出されるのでしょうか?

 

これは、これまで世界中で数多く問われ続けた問いであり、そのたびに何らかの回答らしきものが提示されてきました。

 

イノベーションとは何で、どうやって生み出すのか? これについては、依然として甲論乙駁、確定したコタエはありません。

 

そんな難しいテーマを採り上げ、具体的に世界にイノベーションをもたらした先達がお3方登場して、わかりやすくレクチャーしてくれました。

 

不勉強で知らなかったのですが、「世界初」の発明をした技術者が何人も教授として若い世代の指導をしておられる大学です。

 

冒頭に挨拶された安田浩学長は、JPEG規格の世界標準化を達成された、画像圧縮技術では世界的権威の先生だそうです。

 

「学ぶとは」「実践知とは」「ものづくりとは」というお話を聞かせて頂きました。端的な言葉の中に説得力があります。内容と話し方に、賢者のエッセンスが凝縮されていました。

 

次にメイン講義として登壇されたのは、電動パワーステアリング機構を世界で初めて発明した清水康夫教授でした。

 

「世の中にないものを開発する」とは、一体どういうことなのか。ご自身の実体験に基づくお話しには非常に現場感がありました。

 

お手本がない、実験装置もない、体験者もいない。

それをやっているのに、周囲は異論や反論だらけになる。

パワステの例では、「電動?そんな馬鹿なものがあるか。パワステといえば油圧に決ってるだろ」と言われ続けたそうです。

 

では、それを乗り越えるにはどうすればいいのでしょうか?

 

清水先生は、「人類普遍の哲学」をベースに本質を求め「高い目標」を設定し、梯子を外されても突破する「不屈の精神」を以て課題を克服すると説きます。

 

最後にゲストスピーカーとして登壇したのは、セブンドリーマーズ代表取締役の阪根信一さんです。

化学の博士号をもつ若手の技術ベンチャー経営者として活躍中です。

 

1本1200万円で飛ぶように売れている炭素繊維ゴルフシャフトや睡眠時無呼吸症の生体メカニズム解析測定装置の開発者でもありますが、最近では世界初のランドロイドの開発でも脚光を浴びています。

 

その阪根さんが、これまでの成功と、それを上回る数多くの失敗から凝縮した「イノベーションを起す秘訣」を語ってくれました。

 

膨大な時間と苦労の末にたどりついた、その結論部分だけを、見ず知らずの大勢の聴衆に開示してくれました。有難うございます。

 

「イノベーションはテーマの選定がすべて」だそうです。

「世の中にないもの」を発明するからイノベーションなのであって、既にあってはならないそうです。それを阪根さんは「当たり前」と言っていました。

 

彼の会社では、やることは「前人未到に限る」そうです。スケールの違いを感じます。

 

ポイントは、「諦めずにやり続ける」ことだそうです。

諦めなければ、物理的に無理なこと以外は必ず実現するそうです。

 

だから、基本的に撤退することはしないそうです。途中でやめることはあり得ないので、開発を続行するか中止するかの判断基準は、最初からそのようなものは設定しないと。

 

いや~、我々凡人の常識が次々に否定されてきます。聴いてて気持いいです。

 

反対意見は必ず出る。世の中には、反対の専門家がうじゃうじゃいる。

それを気にする必要は全くない。

反対されればされるほど、それが良いテーマである証拠だから。

よって、反対が強いほどやる価値がある。

 

でも、そういう姿勢を貫いたために、逆境にも陥ります。

 

別の研究がしたいとか、もっと成果の出ることがしたいとか、社内が文句だらけになった。

優秀な社員が次々に辞めて行った。

「資金がない」と経理からも異論が出た。

 

その流れを評して阪根さんは、こう言います。

「いままで世界中にTRYした人はいっぱいいたはず。でも、どこかで潰されたはず。やめろとか、言われたのでしょう」

 

そして、こう結んだのでした。

「それに耐える人だけがイノベーター。耐えた時だけがイノベーション」

 

以上のご高話は、中小企業の経営革新に対しても鋭く突き刺さります。

 

サラリーパーソンは、「できない理由」をうまく見つければそれで済むかもしれませんが、我々中小企業経営者とその支援者は、そこへ逃げることは許されません。成功の唯一の秘訣は、成功するまでやる、でした。

 

深い深いお話を立て続けに聴かせて頂きました東京電機大学様に厚く御礼申し上げます。