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中小企業の事業継承者のToDoリスト

いまあなたが、急に中小企業の経営を引き継ぐことになりました。さて、何から手をつけますか?

 

いろんな参考書がいろんなことを書いています。それぞれの前提や立場が異なるので、一概に論評できませんが、私の実体験から言いますと、一番最初に絶対やらなければならないのは、「今日明日の資金繰りチェック」です。

 

有体に言ってしまえば、倒産を防止することです。

 

企業は事業目的があって、その実現のために経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を活用して操業していくのですが、潰れてしまっては何にもなりません。

 

したがって、企業の最も基礎的な活動とは、事業の継続です。これは何も私が思ったことを勝手に言ってるのではなく、ゴーイング・コンサーンと言われる世界共通の概念なのです。

 

ところが、中小零細企業の経営を急に引き継ぐようなケースでは、事業の継続性が危ぶまれる場合が少なくありません。

 

具体的に多いのは、資金のショート(枯渇)です。売上金や売掛金の入金と、原材料や商品の仕入代金、給料など諸経費の支払、金融機関への返済といった各種資金の日常的な入出金の額とタイミングを自分の眼で確認しておく必要があります。

 

経理部門に任せておけば安心なのかどうかも、大企業の常識が通用しないことも往々にしてあります。

 

とくに零細企業では、経理という部署がなかったりして、経営者が直接手を動かしているケースもあります。

経営を引き継いだ人が当然やるということで、社内のほかの人は誰もタッチしないということもあるのです。

 

こういう事情だけでも先に知らされていれば、まだやりようはありますが、右も左もわからないままに継承してしまうことも場合によってはありえます。

 

このあたりの実務については、中小零細企業の実務に指導経験の豊富な税理士や中小企業診断士の先生は、「そんなの当り前のこと」としていますが、現場実務ではない研究が中心の大学の先生などの書いたテキストなどには、出て来ない部分ということになります。

 

出て来ないけれども、企業の存続のためには何を措いても最重要なことです。

 

大企業の行動メカニズムを研究する経営戦略論の先生だけでなく、中小企業論と銘打った分野を専攻としている先生であっても、こうした泥臭い実務は埒外というのが普通です。

 

事業を継承した人は、手にとる本について、慎重に識別する眼を持つ必要があります。

 

いまや書店で売っている本だけが情報源ではありませんが、かといって、インターネット上に流れているご高説といえば、これはもうハッキリ言って玉石混交です。

 

専門サイトを謳ってもっともらしく表示されるサイトの中でも、本当に信頼に足る内容のものばかりではなく、中には、トンデモ系や都市伝説系のかなり怪しい内容を堂々と展開しているサイトも少なくありません。

 

実名顔出しであっても、一読して「こりゃ専門外でしょ」「実務をやってない」「実務しかやってない」という執筆者が跋扈しているのが、残念ながら現状です。

 

良くも悪くも、インターネットは便所の落書だという割り切りが必要で、自社の死命を決するような状況でネット情報に頼るのは論外です。

 

さて、本題に戻りますと、倒産防止活動は優良企業であれば、「あ、大丈夫なんだ」という確認さえ取れれば、もう一旦終了で、あとは定期的に月次キャッシュフローをチェックしていけば問題ありません。

 

反対に、「うわ!こりゃ大変だ~!」という状況の企業であることがわかった場合には、あまりほかのことに手を出したり頭を使ったりせずに、とにかく目先の資金繰りに全身全霊を捧げるべきです。

 

なにしろ、ちょっとでも想定外の資金流出超過や流入不足が発生したら、その場でゲームオーバーになる状況なのですから。そういう段階の企業は、その体質改善のために抜本的な事業構造の再構築が必須なので、一朝一夕では成就せず、数年かかることもあります。

 

ということで、この第一段階の「倒産防止活動」は、1日で終結することもあるし、3年かかることもある、ということになります。(最悪のケースでは、事業継続は困難と判断することもあるでしょう)

 

ただし、どんなに状況が悪かったとしても、3年以上をかけてしまう(3という数字に特段の根拠はないのですが、経営者本人のみならず従業員の我慢の限界はそれほど長くはないということに依拠しています)と、成功確率が低下していくので注意が必要です。

 

倒産防止活動の具体的な内容や活動項目は、語りはじめるとそれだけで1冊の本になるような重くて厚い中身なので、この場で簡単にさわりを紹介することもできません。(それをやると、誤解を招き、その誤解が取り返しのつかない結果につながってしまうことも皆無といえないからです。)

 

とにかく、ここで強調したいのは、「本業が放っておいても、とりあえず倒産することはない」という状況にあるか、もしくは、その状態まで持ち込むことができたか、ということに確信が持てる段階かということです。

 

そうでなくては、新しい手は打てないし、打っても本業部分に脆弱性があると、経営者は「新しい打ち手」に関与する精力が減退するため、結局は本業も新手も共倒れという、「虻蜂取らず」になる可能性が大きいからです。

 

本業が駄目だと、新規事業で挽回したくなるのが人情ではありますが、その場合にはその本業が最低限イーブンで回っているか、仮に赤字でも月次のキャッシュフロー段階で食い込まないというような水準が求められます。

 

そうでない状況ならば、早期に止血処理が必須です。

 

このように、第①段階においても実務上指摘しておくべき事項が広範にわたるので、なかなか次の第②段階の戦略マトリックスに進むことができません(苦笑)。

 

(つづく)