ファミリービジネスに関しては、学術的な手法による優れた研究の蓄積が世界的に進んでいます。
一方で、ファミリー企業のオーナー経営者による積極的な発言も増えています。
なかでも、昨年の12月に開催されたファミリービジネスに関する連続講演会で、ある老舗企業の経営者から非常に重要な指摘がありましたので、ご紹介します。
このフォーラムは、Entrepreneur Of The Year Japan という起業家を顕彰する年に1度の大会と同時開催されたもので、都内の高級ホテルに併設された会場で新日本監査法人の主催で開かれました。
代々の家業を継承し発展させている経営者の代表として、ツカキグループ6代目の塚本喜左衛門社長が登壇し、自身の経験に深い考察を加味して、重要な論点を多数含むお話をしてくださいました。
すべてを紹介することはできませんが、中小企業経営の実務家に参考となるポイントを再現します。
(以下、臨場感を出すために、直接話法で記述します)
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ファミリービジネスに襲いかかる危機には、大きく3つある。
それは、
1.政府の崩壊
2.天災
3.経済恐慌
である。
それらが、いずれも外的要因であるのに対し、企業内部の要因で崩壊することもある。
それを付け加えるならば、全部で4つになるが、その4つめとは、
4.代替り
である。
日本の近代史150年において、各企業の事業の継続に大きな影響を与えた出来事の1つめは、政府の崩壊である。
明治維新で江戸幕府が崩壊し、旧勢力が一掃されてから、77年後には大日本帝国が敗戦によって崩壊した。
2つめの経済パニックについては、1929年の世界恐慌から79年目にリーマンショックが発生した。
3つめの大きな天災として、1923年の関東大震災から88年後に東日本大地震が発生している。
このような企業の存亡に重大な危機が定期的に襲い掛かってくるのであるが、代々の事業や資産をどのように守っていけばいいのだろうか?
近江商人には、それぞれ家訓が伝わっている。それは、何故か?
単にそのファミリーのモットーを標榜しているのではない。
事業の継続性を保つための重要な指針なのである。
つまり、事業経営に才覚のある者もいれば、ない者も出てくるかもしれない。
どんな時でも、代々の商売と家を絶やすことなく、次代へ伝えていくには、「個人の才覚に頼らない」ことが必須である。
それには、ファミリーとしての過去の経験値を活かすことである。
そういうとキレイ事のように聞えるかもしれないが、要するに「アホでも勤まるようにする」ことが重要なのだ。
その代その代で勝手に判断するのではなく、基本方針をしっかりと決めておいて、動かさないことである。
その1つめは、「資産の三分法」である。
歴史には荒波が定期的に襲ってくるから、これを前提として、どんな荒波でも乗り越えられるように備えが必要となる。
ファミリーの資産は、「本業」「不動産」「財務」の3分野に分けておくことである。
経済には波があるから、自社の本業にとって必ずしも追い風が吹かない時もある。
そういう時でも、陽の当たっている産業というものはいつの時代にも存在する。
だから、株式投資などの形で、陽の当たる産業の恩恵を受けることが必要だ。
現在の当社では、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、アップル、フェイスブック、アリババ、テンセントなどに投資している。
(註:ここまで言い切れる老舗経営者は見たことがありません。徹底されています。)
対処法の2つめは、「三方よし」である。
「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」というところまでは有名だけれども、その意味を理解している人は多くはないのではないか?
特に、「この3つのうちで、何が一番大事なのか?」と聞かれたら、どう答えるのか?
商売で最も大事なことは、儲かることである。
よって、「売り手の利益」が最も大事なことになる。
現在の繁栄は、売り手の利益から生じている。
売り手の利益は、買い手であるお客が喜ぶから生じている。つまり、競争力である。
世間には、雇用と納税で貢献している。
では、これらを将来にわたって継続していくためには、どうしたらよいのか?
買い手を将来にも喜ばせるためには、いまの競争力を将来においても継続させなくてはならない。
それには、売り手である自社の自立(他者に過度に依存しない)を保つような、自律が必要である。
自律とは、経営哲学を持って自己を律することである。
では、事業継続のための経営哲学とは何か?
これについて、当家には、次のような教えが伝わっている。
・当主は、先祖の手代と思え
・別家は、親戚よりも大切にせよ
・道楽息子は、押し込め隠居
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う~む。。。
現在の繁栄は、偶然に成し遂げられたものではなく、いまの言葉でいえば、透徹した危機管理意識が何重にもフェイルセーフの装置を構築してきたことが滲み出るお話しでした。
塚本社長のお話はもっともっと内容が濃く、まだまだこの先も続くのですが、ここでは一旦このあたりで中締めにします。
大変貴重なご高話を有難うございました!