烏がカァ~と鳴かない日はあっても、ガバナンスという用語が新聞に載らない日はない今日この頃です。
知人に、有名大企業の社外取締役を何社か兼務されている方がいます。
その人の行動パターンを分析していくと、社外取締役としてお声がかかる人のキャラクターが見えてくるような気がしました。
知人と申しましても、こちらが一方的にそう言っているだけで、先方からすれば、顔は見たことあるけど、知人とかにしないでよ、という程度だとは思いますが、その辺のところは構わずに進めることにします。
まず何といいましても、これまでのご経歴が重要です。
何しろ、上場企業は株主総会で承認を得なければなりません。就任時のみならず、定期的にやってくる改選の際にも、経歴書を全株主に送付してご承認を頂く必要があります。
総会で発言の機会はめったにないことから、株主は取締役としての適否をほとんどその経歴書だけで判断せざるをえません。
したがって、多数いる株主のそのまた多数に賛成してもらえるような経歴が求められることになります。
スタートアップから短期間で上場したような若くて勢いのあるベンチャー系の企業とは異なり、半世紀以上にわたって東証1部に上場しているような伝統的な大企業の場合には、「重々しいご経歴」が好まれます。
ここまでは誰でも思いつくことなので、面白くもなんともない前置きです。
さて、その重々しいご経歴だけでよければ、実は日本中に候補者は掃いて捨てるほど(失礼!)おられます。
一流大学教授、有名大企業の経営トップ経験者、中央官庁の幹部OB、弁護士や公認会計士などの大物・・・といった具合です。
しかし、こうした方々のうち、ご指名がかかるのはほんの僅かです。
誰でも、一番初めの声がかかるかどうかは、人脈がものをいいます。縁故とかコネともいいますが、要は「人づてに紹介される」ということです。
しかし、その次の段階からは、コネでも運でもない要素になります。
つまり、「資質」です。
では、業務執行取締役ではなく、社外取締役として求められる資質とはなんでしょうか?
一度社外取締役として選任すると、よほどの不祥事でもない限り、任期中は解任されないのが普通です。
問題は、次の任期に再任したいと思われるかどうかです。
再任を決めるのは、事実上、その企業の経営トップです。
要するに、トップに気に入られるかどうかということになります。ガバナンスといっても、実際には決定権のある人から受けがいいかどうか、ということになります。
こう言い切っては元も子もないと思われるかもしれませんが、これが意外に奥が深いのです。
で、この方の場合には、「仕切り」が絶妙に巧いのであります。
取締役会などフォーマルな会議で、議長が「議場に意見を諮る」というシーンを想定してみてください。
議案の提案者(議長とは限らない)にとっては、いったいどのような意見が出されるか、固唾(かたず)を飲む場面です。
そのとき、この社外取締役が「いの一番」に声を上げます。そして、このように発言します。
「世の中がこうこう、こういう状況になりましたし、また、これこれ、こういうことを踏まえると、いまのような提案は非常に良いと思いますね」。
単に「異議なし」などと、馬鹿丸出しなメッセージは決して発しません。
上程された議案の内容の本質を、端的に自分の言葉でまとめ直したうえで、なぜそれが今の当社にとって必要なのかを誰にもわかるように、しかし一瞬で理解できるワードに置き換えてしまうのです。
私は、ある任意団体のフォーマルな会議で、丁度そういう場面に遭遇しましたので、この方の発言の内容とタイミングには、ほとばしるような切れ味があったことを覚えています。
そうすると、ほかの出席者は、「もっとデータを集めて検討したらどうか」とか「もう少し様子を見たらどうか」などと、会議での「あるある」な発言は思いっきりしづらくなります。いわんや、反対論をぶち上げることは、至難の業ということになります。(返り血を浴びる覚悟が必要です)
こうして、この新規の提案は、目出度く承認可決ということになります。
この方の凄いところは、どんな議案に対してもそのようにサポートするわけではないところです。
誰が見ても「そうだな」と思うような、いってみれば当たり前の提案には、特に口を開くことはしません。
議長が、「これは、ちょっと反対が出そうだけれども、なんとか通したい」と思っている心理を、何故か見抜いてしまうのです。そういう議案のときには、機先を制して発言します。
ご経歴も立派だし、発言内容も文句のつけようがないので、議場の大勢は決まってしまいます。
「勝負あった」とはこのことです。
これに助けられると、トップは手放せなくなります。
かくて、この方は名だたる一流大企業の社外取締役を何社も兼務されています。
まさに、我国有数の「プロ社外取締役」といえるでしょう。