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社長業界の話題から ~ 第3回 川辺健太郎さん: 権限の大きい下っ端の悲哀

1か月前の話ですが、ヤフーがZOZOを買収しました。その発表会見を報じる日経新聞9月14日付の紙面がこちらです。

 

毎回この人の顔を見て思うのですが、「眼が死んでいる」のです。イケイケで成長するIT企業の社長なのに、獲ってから3日も4日も経った売れ残りの鰯(イワシ)のような虚ろな目つきというのは、どうも不思議です。

 

普通、急成長中のベンチャー企業の社長といえば、既に前世紀の昔の話になってしまいますが、重田康光、折口雅博、堀江貴文といった面々を想像します。

 

よく言えばオーラを放ち、悪く言えば私利私欲がパワーの源泉となって、独特のキャラクターで有無を言わさず周囲を巻き込んでいくタイプでした。

 

もちろん、眼はギンギラギンに輝いていました。(というか、黒光りしていたと形容したほうがしっくりくるかも)

 

そこへいくと、ヤフー(10月1日から社名変更でZホールディングスとその100%子会社のヤフー)の川辺さんには、オーラも輝きも感じられません。

連結年商9,547億円、正規従業員数12,874人(最新の通期開示資料であるヤフー株式会社2018年度有価証券報告書、2019年6月17日提出版による)とありますから、既にベンチャー企業などという枠には到底収まらない大企業ですが、その総帥の眼が死んでいて1兆円企業の重責が果たせるのでしょうか?

 

結論から申しますと、眼が死んでるから重責が果たせないのではなく、重責が果たせないから眼が死んでるのだと思います。

その役職に就任したときには、おそらく生き生きとした目つきだったのではないかと勝手に想像します。

 

1兆円企業(売上等の取扱高である「eコマース取扱高」は2019年第一四半期5,840億円(ヤフー株式会社2019年度第一四半期決算説明会資料、2019年8月2日)なので、単純に通年化すると2兆3千億円を超えます)

でありながら、日本の証券市場特有の悪名高き「親子上場」によってソフトバンクの連結対象子会社でしかないヤフーの社長は、結局は巨大企業グループの1事業部門長でしかないというのが実情です。

 

孫正義さんは、日経新聞によれば「1位しか許さない」という姿勢でヤフーの川辺さんに発破をかけているとのことです。

 

「1位しか許さない」とは、つまり「1位になれないならクビ」ということです。

至上命令です。

 

孫さんのような大物の命令は、シンプルです。

「1位になれ」とは、議論の余地のない明確な指示です。

 

そのシンプルさには、岩のような固さが伴います。

一旦言い渡したら、揺るがないのです。

 

事業環境がどのように変化しようとも、市場の状況に変動が生じようとも、命令の基本は動かさない。

 

これこそ、大きな組織を率いる者のあるべき姿といえます。

 

状況に応じて指示命令を柔軟に変えるのは、実は小物のトップです。

大物は、状況に応じて命令を変えるのではなく、状況を変えろと命じるのです。

 

このように、動かざること山の如しの大命を受けた川辺さんは、達成が危なくなって焦ります。

 

子会社化していたアスクルの関連事業で、もっとも成長している「ロハコ」事業を割譲するよう要求するという無茶な手に出ました。

 

これをアスクルの創業社長で、近年発生したアスクル倉庫の火災の際には、トップ自ら現地で陣頭指揮を執って収束させ、「神対応」とネット上で大きな称賛を集めた岩田さんは、これに応じませんでした。

 

アスクルは上場企業ですから、岩田社長には株主に対する責任があります。

株主は筆頭株主のヤフーだけではなく、そのほかのすべての株主が含まれます。

伸び盛りの事業部門を放出することは、譲り受ける筆頭株主だけの利益になって、横取りされた株主には大きな損失ですから、岩田さんが反対したのは当然のことです。

 

そこで、川辺さんは岩田さんの解任を示唆しました。

時は既にアスクルの定時株主総会に上程する取締役の再任人事案が、主要株主の間で合意されていました。

つまり、岩田社長の再任は筆頭株主であるヤフーも合意していたのですが、これを突然反故にしたのです。

 

すると、アスクルの独立社外取締役3名が連名で異議を唱えました。

コーポレートガバナンスを揺るがす大問題として、この異議は当然のことです。

 

ところが、川辺さんはとんでもない奇手に出ます。

ほどなく開催されたアスクルの定時株主総会で、岩田社長のみならず、独立社外取締役3名全員を解任してしまったのです。

 

会社側が大株主の合意の上で作成して総会に諮った人事案を、大株主が一転反対して否決するという前代未聞の展開となりました。

 

社長解任の当否よりも、私は独立社外取締役を全員解任してしまうという暴挙に対して、声を大にして非難するものです。

コーポレートガバナンスの歴史に残る、大きな汚点というべき惨事です。

 

自分の延命のためには、ガバナンスが滑ったの転んだのという難しいことには構っちゃおれないということです。

それほど追い詰められていたということでしょう。

 

窮鼠猫を噛むとはこのことです。

 

これについて見解を求められた孫さんが、「投資先の経営者を仲間だと思っている自分の方針とは異なる」と表明したことには、川辺さんもびっくりだったでしょう。

 

自己の意だけを押し付けたいなら、上場を廃止すべきです。

上場企業は、別名「公開企業」です。

 

公(おおやけ)に開かれているべき存在です。

意のままに操るのであれば、私企業に戻るべきです。

(そのような公開企業はたくさんあります)

 

次いで、冒頭の新聞記事にあったようにZOZOを買収しました。

対価は4千億円だそうです。

 

つまり、凄い権限を持っているのですね、川辺さんは。

話題の上場企業ゾゾタウンを買うのに、ポンと4千億円を出せちゃうわけです。

 

それもこれも、クビになるのが怖いからというのも、悲哀を感じます。

1兆円企業のトップが鼠でしかなかったことが、白日の下に晒された騒動でした。

 

もっとも、ガバナンスを瓦解させてまでロハコを100%手に入れ、大枚をはたいてZOZOを取り込んでも、先を走るアマゾンや楽天の背中は遠いままです。

 

経営学の学会でM&Aの失敗事例について研究をしている身としては、PLやBSの向上を目的としたM&Aは成功確率が低いと見ていますが、そのことについてはまたの機会に譲ります。