奇人・変人 | 常 識 人 | |
有 能 |
岡本太郎
|
王 貞治 |
無 能 |
安藤忠雄
|
一般大衆 |
この図は、企業が従業員を採用しようとする際に、どのような候補者を選ぶべきかを考えるための模式図です。
タテヨコの線で区画された4つの窓には、それぞれ人名らしき漢字が記入してありますが、これはそれぞれの窓につけられたペットネームです。
実在の人物とは一切関係ありませんので、あらかじめお断りしておきます。
どの会社でも、右上のブルーの窓から従業員を採用したいと思うでしょう。
社会人としての常識があって、仕事もできる有能な人材を採りたいというのは、まあ自然なことです。
(なお、ここでいう「奇人・変人」にはネガティブな含意はありません。常識人が優位で、奇人・変人が劣位であるとは一切考えていませんし、奇人・変人にはなんらかの器質的な欠陥があるとも毛頭思っていませんので、そこは声を大にして宣言しておきます。)
しかし、普通の企業では、奇人・変人は避けられる傾向にあるのが現実です。そこには、良い/悪いという尺度以前に、採る側の好き/嫌いという趣向の問題が優勢となっています。
そこで、「有能な常識人」が最優先で求められることになります。ところが問題は、「そういう人はなかなかいない」ことです。
ただでさえ、存在している個体数が少ないのに、自社の採用に引っかかってくれる確率はさらに低いと言わざるを得ません。厳しい現実があるのです。
そこで、採用担当者としては、とにかく人数を確保する必要がありますから、ブルーの窓はあきらめなくてはなりません。
さて、次善の策として、どこの窓を狙うかです。
左上のオレンジ色の窓は、「有能だけれども、奇人・変人」という人たちです。
右下の深緑の窓は、「社会常識はそれなりにわきまえている(ように見える)が、能力は期待でいない」という人々です。
このように示されると、「いや、そんな人間はどちらも採用するわけにはいかない。当社はなんとしても右上のブルー窓の人材を探すのだ」と声を荒げる人が出てくるでしょう。
しかし、世の中には何万社もあるのです。
それに対して、ブルー窓に分類される人口は圧倒的に不足していると考えられます。
では、各窓に何人くらいの候補者がマクロで存在しているのかということを、数字で考えてみましょう。
いきなり実数値を入れるのではなく、おおまかな比率を想定します。
世の中に、奇人・変人と常識人は、どのような比率で存在しているでしょうか?
それは判断する個人の主観ですから、断言できません。誰もが「自分は変人です」とは滅多なことでは名乗らないし、あたかも常識人のように佇んでいます。面接でその辺を探ろうとしても、長く(20年の人生で)密かに奇人・変人と思われてきた人は、自認していなくてもそのような周囲の視線を無意識のうちに感じ取っていて、自己のカモフラージュにかけては豊富な経験をもっているので、面接官がいきなり初対面で見破ることはかなり難しいといえます。
ここでは、議論を進めるためにエイヤで決めてしまいます。いま仮に「奇人・変人3:常識人7」という比率を設定します。
次に、「有能2:無能8」という比率も仮に設定します。これは、よく言われる「2:6:2」の発現確率をベースにしたものです。真ん中の「6」を「無能」に分類するのは、「有能枠である2割に入らない人」と定義したからで、無能かどうかを判定したわけではありません。(そもそも、そんな判定は事前にはできません)
この仮の数字を、マトリックスの外側へ書いておきます。
そして、それぞれの掛け算をして、その答を各窓に書き込むと、下の図のようになります。
奇人・変人 3 | 常 識 人 7 | |
有 能 2 |
6
|
14 |
無 能 8 |
24
|
56 |
この各窓の数字は、全体を100としたときの、各窓の特性をもった人の出現確率となります。
2020年3月卒業予定の大学生・大学院生の民間企業就職希望者数は、44万人だそうです。これに対して、求人は80.5万人とのことです。(リクルートワークス研究所による)
わずかに14%しかいないブルー窓の「珍しいポケモン」を狙っても、就活人気ランキングの上位企業でもない限り、そのような学生さんに入社してもらえる可能性は低くなります。
念のため実数を計算しておくと、44万人*14%なので、およそ6万人しか出現しません。
そこで、普通は深緑の窓から、有能そうな候補者を選ぶ作業が延々と続くのですが、私はここで左上のオレンジ窓を狙うことをお奨めしたいと考えます。
それは、競合他社が狙わないので比較的採りやすいことと、なにしろすごく優秀であって、数年後には企業の業績を1人で向上させてしまうような天才と判明するかもしれない可能性を秘めているからです。
そんなことは無論簡単には、しかも事前にはますますわかりません。
しかし、右下の凡庸な人材を何千人と集めたところで、数年後に天才に化けることはぼぼ期待できないことに比べたら、楽しみが大いに増えることになります。
金鉱脈で採掘していれば、いつしか金塊に出くわす可能性もゼロとはいえませんが、近所の公園の砂場で連日徹夜して砂を篩(ふるい)に掛け続けたところで、砂金が出てくることはほぼないとみてよいでしょう。
しかし、そんなことはわかった上で、「凡庸な普通人」を採りたがるのが、現代日本の大企業病です。
いくら有能であっても、奇人・変人系の人材は、同調圧力だらけの日本企業ではとにかく嫌われます。
「こんなやつ採用したのは誰だ!」と大声で怒られるに決まっているので、人事部門は最初から避けて通ります。
なので、能力があるのにあぶれている原石は、実は予想以上にゴロゴロ転がっている可能性があります。
上から下まで全員がサラリーマンで構成されているような大企業では難しいかもしれませんが、これこそオーナー系の中小・中堅企業の出番といえます。
こんな話を長々としてきたのには訳があります。
実は写真の本を読んで、感銘を受けたことを書きたかったのです。
この本は、巷でよく引き合いに出される有名なフレームワークを、次々に切って捨てていく切れ味が楽しめるので、お奨めしたいと思いました。
単に切り捨てるのではなく、「間違えて使っている例」を、実名で引用しているのです。有名なフレームワークの使い方を間違っている例として、誰もが知っている有名企業や、学者としては非常に異例なことですが、他の学者や著者を実名で挙げています。
これは、今はやりの忖度を重視する既存の常識とか、同調圧力とは対極に位置する姿勢です。
この著者は、最初に三越に就職しています。日本の小売業の頂点に立っていた老舗の名門で、よくこのような奇人・変人系を採用したと感心します。
その後、民間研究機関や大学教授という転職歴は、奇人・変人系の常道といいますか、王道と申しますか、大変理にかなった進路だったとは思いますが、常識の塊のように見える全盛期の三越の懐の広さには、返す返す感銘を受けずにはおれません。
民間企業の人材採用においても、こうした奇人系で優秀な人材を、意識して探索し採用していくことができれば、今後どうなるか予測のつかない将来に対応する岡本太郎的な発想を内製する絶好のチャンスと思います。
本稿は、世に埋もれた奇人・変人を称賛するためにご紹介しましたが、最後に注意点があります。
「よしわかった。奇人・変人を採ればいいんだな!」と決断して頂くのはいいのですが、えてしてマトリックスの左上のオレンジの窓を狙っているつもりが、採ってみたらその下の黄色だったということがありがちです。
岡本太郎を狙ったのに、蓋を開けてみたら安藤忠雄でした、では冗談では済まされません。
(東京大学百年の建学の歴史に先立つ前田藩邸3百年の貴重な風情を守りつつ近代的な学舎群を育んできた碩学たちの累代にわたる高邁な気概と配意の蓄積を、一瞬のうちにコンクリート塊による廃墟と化さしめた暴挙をなした凡夫を天才と称揚する曲学阿世の徒たちを是非とも他山の石として自戒して頂ければと思います。)
変人なら誰でもいいのではなく、その先を見抜く眼力こそ求められるのです。
無能な変人ほど始末に負えないカテゴリーはありません。