今朝の日経の報道では、丸紅が大手出版社3社と合弁で、出版流通会社を設立して新規参入するそうです。
講談社、小学館、集英社という業界大手が、業界外の総合商社を道連れにして、垂直統合ともいえる流通に手を出していくそうです。
新規事業は、成長産業に参入するのが成功の鉄則です。これを無視して、日販とトーハンの事実上2社寡占で、しかも寡占利潤を謳歌するどころか、2社とも赤字体質に転落してヘロヘロになっています。
産業の栄枯盛衰は、どの事業分野にも容赦なく到来します。産業衰退の最末期には、業界には熾烈な競争を勝ち残ったほんの数社だけが残存しています。
そこでは、首位の企業でも赤字体質になって、苦闘しつつ意地になって操業しています。昔は名門企業として肩で風を切っていた時代が長かったので、現在の落ちぶれた境遇を受け入れることができずに、虚勢を張って余生を生きているという状況です。
さきほど、「勝ち残った」と書きましたが、こうなると「負け残った」と言ったほうが適切かもしれません。
さて、そんな絵に描いたような衰退産業に、新規参入するというので、これは(自称)産業構造研究者としては大変興味深い事例です。
優良出版物を生産している大手3社というのがポイントです。(今後増えて行くのかも知れませんが)
売れる本を持っている出版社が、既存の取次流通から離脱してしまうと、取次店には「売れない」出版社しか残らないことになり、ますます収益が悪化することは火を見るよりも明らかです。
また、この3社も、新規設立流通会社は「いいとこどり」するでしょうから、「いいとこ」ではない販売店、つまり離島や僻地の書店には、相変わらず既存の取次ルートを使い続ける可能性が大といえます。
取次店にとっては、踏んだり蹴ったりです。
私が流通企業の経営者だったころ、販売代金の回収に懸念のある顧客が相当数存在していました。上場企業でも、突然民事再生してしまうこともありました。
こうした「取りっぱぐれ」に備えて、ファクタリングの導入を検討しました。
当時月商が約10億円でしたので、売掛債権額はその「1.数倍」ありました。
こちらとしては、「危なそうな」債権をファクタリング会社に引き受けてもらい、「安全な」債権は自社で従来通り回収することで、ファクタリング手数料を抑えようと思いました。
ところが、ファクタリング会社からは「危なそうな先は、安全な先とセットでないと受けられない」と言われました。
良く考えれば、それはそうです。
「危ない先」ばかりでは、リスク見合いの手数料がとんでもなく高くなります。
保険と一緒で、リスクを平準化することで手数料を抑える発想なのです。
出版流通にも同じことがいえます。
「売れる出版社と、売れる書店」だけが離脱していったら、もう残りの星の数ほどある出版社と、地方書店や都内でも零細書店のロジスティクスは崩壊するでしょう。
手詰まり事業への新規参入で成功した事例は、世界中の産業史においてかつてなかったといえます。
あるとしたら、「一見手詰まり事業」だが、それを「特化事業に逆流」させたケースです。
今回の大手3社が何を考えて、どんな戦略を繰り出すのか、注目したいと思います。